11:彼がメガネをかける理由
それはあくまで言い訳であって
昼過ぎの屋上。
明らかに午前の授業中な時間帯に、桃山と舞子はいた。
特に会話もなく。
桃山は校庭を眺めて、舞子は桃山を眺めていた。
「・・・。なんやの、さっきからお前は。人の事見すぎや」
「桃山」
「なん?」
「お前そんな目悪ないやろ」
「は?それがなん?」
「何でメガネかけてん!さては世界をメガネで征服しようっていう、あれかっ!メガネはオシャレの内なのかあぁっ!!」
どうやら舞子はテンションが高いようで、ぎゃー、とか、しゃーっ、とか言って騒いでいる。
「じゃぁ、それでええわ」
「よぉないわ」
「なんやねん」
「さっさと答えろ」
カチャ、と舞子の右手が機械的な音をたてる。
「どこの女子高生が懐から拳銃出すねん」
「安心しぃ、水鉄砲や」
「嘘言え」
話が横道に逸れてる事にも気付かずに、結局舞子の銃が水と炎を一緒に吐き出して終わった。
午後の始業のチャイム。
桃山は、また屋上にいた。
舞子は新聞のネタがどーとか言って走って帰って行ったから、一人で校庭を眺める。
グラウンド横。
大きな――生憎既に葉だけになっている――桜木の下。
アイツはそこにいた。
屋上には桃山と舞子がいることを知ってから、アイツはそこに行くようになった。
授業中でもそこで、空を見たりボールを蹴ったりしているのを、桃山はよく知っている。
目は悪くないとはいえ、少し悪い。
屋上から見るアイツがぼやけるから、伊達だったのに度を入れた。
黒板が見にくい、なんてベタベタな嘘――黒板が見えにくいくらい成績にはなんら影響はない――。
だてメガネは親父の妄言。
今のメガネは自分の狂言。
空に手を伸ばす楽市をみながら、自分もいい加減親父の阿呆が移ったと思った。