俺がペットであなたが主で



俺は昔、曳山さんに飼われていた。




初めて会ったその日

「面白いなお前。今日から俺のペットな!」

彼は快活に爽やかにいつもの笑顔でとんでもない事を言ったのだった。



実際俺は、その日からどこに行くにも彼の半歩後ろを着いて歩くようになった。

あの人が阿呆な事をすれば馬鹿にしたし、無茶を言い出せば鼻で笑ってやった。


けど、どうしても俺は彼を呼び捨てには出来なかった。

この俺よりもサッカーが上手かった、というのもあるんだろうが、実のところは自分でもよく解らない。


まつり


そのたった三文字が俺には口に出来ないのだ。

彼を前にすると俺は只々彼の持つ力に圧倒され平伏すばかりだった。

悔しいから態度には出してやらなかったが。



彼には何か人を惹きつける神がかった才能があった。


そして俺はあの男に惹かれ、夏のほとんどの時間を共に無駄にした。

隣で彼が馬鹿騒ぎをしているのが、俺の日常だった。






彼は突然いなくなった。


初めはいつもの事かと思った。

気分屋なあの人が唐突にいなくなって数日後にひょっこり帰ってくるなんてことは多々あったし。



でも彼は冬になっても帰ってこなかった。


「…寒」

こんな日は彼からマフラーでも奪って暖を取るのが一番だと思った。



もう彼はいない。



……全く、あの人は、身勝手な飼い主に捨てられたペットをかわいそうだとか思わないのか。


俺を置いて一人で消えやがって。


「はぁ……」

重い息を吐く。


寒い。


一人だと尚更寒い。


どうしても、あの夏まで確かに隣にいた彼に、ここにいて欲しいと願ってしまう。

当たり前になって忘れていたが、俺には彼が必要なんだ。


――飼い主なら責任持てよ。


自由奔放なあの男にそんな事言っても仕方ない気もするが。

ひと夏で俺は彼なしには生きられないようになってしまった。


彼に対するこの想いが、恋愛感情だとは思わない。

第一男同士だし、俺は今も昔も断然女が好きだ。


それこそ主従的な関係。

飼い主。

俺は彼に逆らえないし、逆らう気もなかった。


現に俺は、彼なくして一人で立つことすらも間々ならない。


絶対的な支配者。


彼はもういないのだ。


寒い。


家までまだまだ距離がある。

流石田舎だ。

毎日学校まで3kmもある道をなんの疑問も抱かず歩いて通っていたのはやはり彼がいたからだった。


「……寒」


歩くのも億劫になり思わず道の端にしゃがみこむ。


あぁ、彼がいれば……

そんなことばかり考えてしまう。


俺は長居を決め込んで道端に横になった。

もしかしたらこのまま凍死するかもという思いが過ぎったが、彼のいない今、それもありかも知れない。



横になって10分程経った頃、人の足が目に入った。


「……なにやってん、オマエ」


声をかけられ見上げるとそこには彼――ではなく、スウェット姿で新聞を抱えた女が立っていた。



「――捨て犬ごっこ」



これが俺とマイコの初めて交わした会話だった。


























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