05:煙草の煙


煙の向こう

きれいな金色の髪を見ていた



イタリアから帰って来て地元の高校に入ったオレは


変な奴を見つけた。


つか、見つけてもーた。

ぶっちゃけ変過ぎて、そいつとの出会いを激しく後悔しとる。


そいつの名前は、

近江舞子。


オレよか一つ年上で、

一人新聞部

華奢な身体

整った顔立ち

きれいな金髪


たたし凶暴

かつ意味分からん

そんな奴。


いつからだったのか。


気付けばオレは、

そんなマイコのことを好きになっていた。




部活の始まる放課後。

オレは屋上でタバコを吹かしてた。

一人――


カシャッ

「寝タバコ」


――じゃない。


「……勝手に撮んなや」


何故かマイコと二人だった。


「イタリー帰りの都落ちボーイはサッカーやらんでええんか?」


デジカメをいじりながら、にやにや笑みを浮かべながら聞いてくる。

嫌な奴だ。


「都落ちちゃうわ」


もうサッカーなんかしない。


サッカーが嫌いになった訳じゃないけど

気負って期待されてやるサッカーには疲れた。


オレがしたかったのはそんなサッカーじゃない。


――じゃぁ、どんなサッカーがやりたいんだ…?


「…サッカーなんかやらん」

「なんでやらんの」

「………」


話すのが面倒で何と言って誤魔化そうか考えていると、マイコが勝手に話し始めた。


「若くしてカルチョの国に渡ったサッカー少年は、生まれて初めての挫折を味わい、失意の帰国」

「話を作るな!」

「そしてタバコくゆらせ物憂げに」

「続けるな!」

「よし、このネタで早速記事を!」

「嘘八百じゃねぇか!」


意気込んで屋上から校舎に戻ろうとしていたマイコの背中に突っ込みを入れる。

と、閉じかけたドアからマイコが突然顔を出したから、オレは少し驚いてしまった。


「…な、なんや」


軽く腰の引けてるオレを後目にマイコは


「ボール蹴らんと何も始まらんぞ、コゾー」


それだけ言ってドアを閉めた。



今度こそ屋上にはオレ一人。

短くなったタバコを上履きで踏み消して、新しく火をつける。

ゆっくりと吸い込んで、一息。

吐き出した煙が空に広がって消えていく。


煙が消えて開けた視界には、ボールを蹴るサッカー部員達が映った。




それから一日と数時間後。


目の前でびわこが何かのたまわってる。


……なんでこうなったのか。

オレは校庭まで連れて来られていた。


なんでってまぁ、単位や出席日数に目の眩んだマツリとマイコに捕まったからなんだが……



もうサッカーなんかしない

本気でそう思ってた。


でもオレは今、渡されたユニフォームに袖を通し、グラウンドに立ってる。



もうサッカーなんかしない


つもりだったのに。



視界の端にマイコが映る。


『ボール蹴らんと何も始まらんぞ、コゾー』



オレはボールを蹴りだした。




タバコはやめた。


実際のところちゃんと吸っていた訳ではなかったので、やめるのは至って簡単だった。


制服からユニフォームに着替えて、更衣室からグラウンドへ向かう。

グラウンドの端に座ってスパイクの紐を結び直しているところにマイコが通りかかった。


「あんなにサッカーせんとか言うとったヤツがすっかりサッカー部員やんけ」


オレが顔を上げるとマイコは相変わらずにやにや笑ってる。

見下ろされてるのはムカつくので、立ち上がって目線を合わせる。


「うっさいわ」


気付けばオレは

マイコのことが好きだった。


今思えばそれは一目惚れだったのかもしれない。


なんて、目の前で笑ってるマイコを見てそんな事を思う。




タバコの煙越しじゃないマイコは、いつもよりきれいに見えた。



































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