なんとなく、適当に。
別に適当な関係でいいのだ。
「ま、米原先輩っ、つ、付き合ってくださいっっ」
あ。
部活の始まりだした、放課後の下駄箱。
明らかな告白現場に、ナイスなタイミングで、マイコは居合わせてしまった。
「舞子」
しかも米原は、たった今告白してきた相手より先に、視界に入ったマイコに声をかけてきた。
「正門で待て」
なんで自分が待たなきゃいけないんだ、ど思いつつもマイコの口から出たのは、
「あいさ」
思いもよらぬ同意の言葉だった。
さっきのはなんだ?
マイコは一人、正門の上にもう少しでパンツの見えそうな体勢で座りながら考える。
さっきの自分の返事はなんだ?
あの女子生徒への嫉妬か?
それだと具体的じゃないな。
じゃぁ、なんだ?
あの女子生徒が、米原に告白した事への嫉妬か?
告白できるということへの嫉妬?
なんか、こう、紫色の白鳥が賞味期限切れの牛乳と混ざり合って出来た物干し竿の様だ。
そして自分は今、いつになく詩が書けそうだ。
などと、思考が徐々にあらぬ方向へと向かい始めた頃、米原がやってきた。
そして一言。
「…見えたぞ」
「ふーんだ」
「…お前、なにやってん」
「へーんだ」
「…」
「米原なんや知らんっ」
不毛な会話。
会話にすらなってない。
米原はマイコを一瞥してから、門を出て歩き出した。
待たせておいてこれだ。
マイコも不服そうな顔をしつつ、門から飛び降り、米原の後ろに続く。
人のいない帰り道。
下駄箱での出来事が気になる。
結局なんと言って断ったのだろう。
いや、もしかしたら、断ってないのかも。
気になって仕方がない。
「だぅぁー!!」
「だから何なんだ、お前は」
「米原…」
「何?」
「……の馬鹿」
「……………」
変だ。
おかしい。
違う。
こんなじゃない。
「………疲れた」
「こっちのセリフだ」
好きだとか、そんな安っぽい感情じゃなくて。
友情とか、そんな暑苦しい関係じゃなくて。
もっとこう、だるくてゆるくて、そう、適当な感じ。
「舞子」
呼ばれて顔を上げる。
「デコピン」
「してから言うな」
「頭撫でて良いか?」
「しながら言うな」
「キス」
「……」
「する」
「だからしてから言うなて」
何がしたいんだ、こいつは。
意味が分からん。
前からこんな奴だったけど。
‥そうだ、前からこんなだった。
目を閉じて、開けても、そこにいるように。
「何考えてるんだ、お前」
米原は何があってもそこにいる。
「今日の晩御飯」
キミの笑った顔が妙にあたしを安心させる。